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by bunntami

June.2005 Vol.2 文学の奥底 「メタモルフォーゼの示すもの」

d0053670_1854380.jpg『変身』 カフカ著/高橋義孝訳  新潮文庫
『変身』は夭折の天才作家、フランツ・カフカ(1883-1924)の言わずと知れた代表作だ。いわゆるメタモルフォーゼ(変形)を主題にした作品で、ある朝男が目を覚ますと、自分が巨大な“ムカデ”に「変身」していた、という物語である。各国の神話や昔話にもこの手の「変身譚」はよくあるのだが、『変身』には他の「変身譚」には感じられない、奇異な感じを受ける。そこにこの作品の、未だ解き明かされない謎が潜んでいる。その奇異な感じとは、ムカデとなったグレゴール・ザムザに対する、その両親や妹などの反応から滲みでている。普通ならば、驚愕・恐怖し許容ならざる事態と思うはずが、それを両親や妹は当然のごとく受け入れる。さらに周囲の関心は、本当にそのムカデがグレゴールであるか、ということに移ってゆくのである。グレゴールは、貧しい家計を支えるために懸命に働いていた。そんなグレゴールが“ムカデ”になることが「当然」であるとされ、それは「必然」であるかのように思われてくる。そして作品中、この「メタモルフォーゼ」の原因が、一言も語られることはなく、日常が繰り広げられてゆく。この「メタモルフォーゼ」の示すものは何なのか。謎は深まるばかりである。
text by 真司
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by bunntami | 2005-06-24 17:09 | 創刊第2号/2005年6月発刊