文学をこよなく愛する人へ


by bunntami

June.2005 Vol.2 リレー小説 無名寓話 第弐話 「焦燥感」

前回までのあらすじ
頭には先程見た夢がこびり付いて離れないでいる。まどろみから立ち直ろうと煙草に火をつけたミキオは,まだぼんやりとした目で時刻を知り、大学に行くのを止すことに決めた。ふと気付くと下着姿の女がこちらを見据えて立っている。一瞬ぎょっとしたが、 すぐ我に帰る。確か名前は………

クラブで泥酔いしたゆえの行きずりのこと、思い出せるはずもない。きっと、この女もそうなのだろう。シャワーを浴びていたらしく、髪を拭いたり爪をいじったり、こちらに話し掛けようともしてこない。 ミキオは話かけるのを諦めて、パソコンの電源を入れた。メールを開いてみたが、来ているのは迷惑メールばかり。再びベットに倒れ込み、脇に転がっていた雑誌をしばらくパラパラとやってみるが、すぐにまた放り投げる。 目を瞑り、暗闇と静寂が訪れるのを待つ-遠くに小さい子供の泣き声が聞こえる。このまま、このまま、闇が体を包んでいってくれればいいのに……。「…ぇ…ねぇってば。聞いてるの?火、貸してよ」少しヒステリックな女の呼び掛けに狼狽しながら、慌ててライターを放る。「ありがと」。カチッカチッ。女は無表情に煙草に火をつける。狼狽したのは、突然話し掛けられたからだけではない。女の顔が、何だか、初めて付き合った女の顔に似ていたからだ。あいつの名前は死んでも忘れそうにないな、とミキオは思った。反吐が出そうだ。ふと、この女を無茶苦茶にしてやりたいという衝動にかられる……否、正確に言えば、世界に終わりがくればいい。そう、ミキオは思った。女は、ミキオの感情の変化になど全く気付かずに、満足そうに、紫煙を吐き出している。スクリーンの光に照らされた部屋の中は、雑然としていて、燥焦感を煽る。そうだ。あいつに会いに行こう。少しはマシな気分になれるかもしれない。 ミキオはまだ、足下に引かれた赤黒い絨毯が、彼を導くように延びていっていることに気付いてはいなかった。
text by Marbou
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by bunntami | 2005-06-24 17:10 | 創刊第2号/2005年6月発刊